根の治療で何度も通う理由(保険治療と自由診療の違いも解説)

根の治療(根管治療)は「なぜ1回で終わらないのか」「同じことを繰り返しているように見える」「通院回数が多いほど悪い治療なのでは」と不安になりやすい治療です。しかし根管治療は、肉眼では見えない歯の内部(複雑な根管系)に潜む細菌感染を、段階的に制御しながら成功率を最大化する“精密医療”です。さらに日本の保険診療には算定・時間・材料・工程上の制約があり、結果として複数回に分ける設計になりやすい面もあります。

根管治療は「感染制御」と「再感染予防」を段階的に積み上げる治療

根管治療の目的は、痛みを止めることだけではありません。根管内および根尖(根の先)周囲に成立した感染を可能な限り減らし、無菌化に近い状態へ導いたうえで、再感染が起きないように緊密に封鎖することが本質です。根管は複雑で個体差が大きく、細菌は根管壁の微細構造や側枝、イスムス、象牙細管へ入り込みます。これらを一度の処置で確実に制御することは一般に困難で、処置→評価→追加清掃・消毒→封鎖という工程を安全に積み上げる必要があります。通院回数が増えるのは、失敗ではなく成功率を上げるための設計であることが多いのです。

根管治療で行っていること(見た目は似ていても目的が違う)

  • 感染源の除去:感染歯髄・壊死組織・バイオフィルムの機械的除去(形成・拡大を含む)
  • 化学的洗浄:洗浄液による根管内の化学的清掃(到達しにくい部位の補完)
  • 貼薬・仮封:根管内の細菌数を時間で減らし、外部からの再汚染を遮断
  • 症状・排膿の評価:疼痛、打診痛、腫脹、瘻孔、排膿の有無などを確認
  • 最終封鎖:根管充填と支台構築、被せ物まで含めた「再感染しない設計」

医学的に「1回で終わりにくい」主な理由

根管治療の難しさは、感染部位が“見えない・狭い・複雑”である点に集約されます。奥歯ほど根管数が多く、湾曲、分岐、イスムス、側枝が増え、器具や洗浄液の到達性が課題になります。また、感染は根管内だけで完結せず、根尖外へ波及していることも多く、症状や排膿の状態に応じて段階的に進める必要があります。無理に工程を詰めると、未処置部位の残存感染や仮封不良による再汚染を招き、短期的には楽でも中長期的な再発リスクが高まります。複数回に分けるのは、成功率のために合理的な選択となることが少なくありません。

理由1:根管は複雑で「器具が届かない領域」が存在する

根管系は単純な筒ではありません。狭窄、扁平根管、湾曲、イスムス、側枝などが存在し、器具で直接触れられるのはその一部です。洗浄・拡大・再評価を繰り返し、到達性を最大化して感染を段階的に減らす必要があります。特に上顎大臼歯のMB2など、追加根管の探索が必要な歯では、診断と処置に時間と工程がかかります。

理由2:根管内細菌はバイオフィルムを形成し、除去に“時間”が必要

根管内感染は単純な浮遊菌だけではなく、バイオフィルムとして根管壁に強固に付着します。機械的除去と化学的洗浄を組み合わせても、一度で十分な細菌減少が得られない場合があります。貼薬(根管内薬剤)により、時間経過で細菌の活動を抑え、次回に追加清掃・洗浄を行うことで成功率を高めます。

理由3:根尖の炎症・排膿のコントロールが必要なことがある

根尖病変が大きい、膿が出る、腫れがある、瘻孔があるなどの場合、根管内を清掃してもすぐに乾燥状態にならないことがあります。こうした状況で拙速に根管充填を行うと、感染の閉じ込め(フレアアップや慢性化)につながる可能性があります。症状や排膿の評価を挟みながら、根管内環境が整ってから封鎖することが重要です。

理由4:再治療は「除去工程」が増えるため回数が増えやすい

再根管治療では、既存の根管充填材、メタルコア、支台築造、破折器具、レッジ、穿孔など、障害物の除去・修正工程が加わります。感染源を除去する前に“到達路”を整える必要があり、治療回数が増える傾向があります。ここを短縮すると、感染除去の精度が落ち、再発率が上がり得ます。

理由5:最終的な「封鎖(コロナルシール)」までが治療である

根管充填が良好でも、仮封や最終修復が不十分だと、唾液由来の細菌が再侵入し再感染します。根管治療は根管内だけの勝負ではなく、適切な支台築造と最終補綴まで含めた封鎖戦略が不可欠です。工程が分かれるほど、通院回数は増える可能性がありますが、長期予後に直結する重要工程です。

保険治療で通院回数が増えやすい「制度的」理由

日本の保険診療は、国民皆保険として医療アクセスを担保する優れた仕組みである一方、根管治療のような高難度・高工数の精密処置では、算定ルールや時間配分、使用できる材料・器材、診療枠の設計などが通院回数に影響しやすい側面があります。結果として、1回あたりに実施できる工程が限定され、複数回に分けて安全に進める設計になりやすくなります。これは“手抜き”を意味するものではなく、制度の中で安全域を保ちながら治療を成立させるための現実的な運用でもあります。以下に、患者さまが誤解しやすいポイントを整理します。

1回の診療時間に上限が生じやすい(工程を分割せざるを得ない)

保険診療では、診療枠の都合や算定上の運用により、根管治療に十分な時間を連続で確保しにくい場合があります。根管治療は「診断」「隔壁・防湿」「探索」「形成」「洗浄」「貼薬」「仮封」など多工程であり、1回で詰め込むと安全性・精度が下がりやすくなります。工程を分割して確実性を担保する結果、通院回数が増えます。

使用材料・手技の選択肢が限定される場合がある

保険診療では、使用できる材料・器材に制約があり、最適解が常に自由に選べるわけではありません。例えば仮封材の選択、隔壁・防湿の設計、支台築造の材料選択などが治療戦略に影響します。制約下では、より慎重な経過観察や貼薬期間を設けて感染制御を安定させる必要が生じることがあります。

再感染リスクを避けるため「評価」と「貼薬」を挟む運用になりやすい

保険診療の枠組みでは、十分な時間・器材を用いて一度で高い除菌レベルに到達させることが難しいケースがあります。そのため、貼薬・仮封で細菌数を減らし、症状の安定を確認してから次工程へ進む、という段階治療の色合いが強くなり、複数回通院になりやすくなります。

自由診療(自費)の根管治療で“設計”が変わる理由

自由診療は「高い材料を使う治療」というイメージだけで語られがちですが、本質は“治療設計の自由度”にあります。根管治療では、診断から防湿、視野確保、到達性の最大化、洗浄戦略、封鎖戦略、補綴との連携まで、成功率を左右する変数が多く、治療の質は「時間」「設備」「手技」「材料」「チーム連携」「工程管理」に依存します。自由診療ではこれらを最適化しやすく、症例によっては通院回数の短縮も可能になります。ただし、自由診療であっても“感染制御に必要な工程”を省略することが正解とは限らず、回数より成功率を最優先に設計すべき点は変わりません。

自由診療で最適化しやすいポイント

  • 診療時間:難症例でも十分な処置時間を確保し、工程を一度に進めやすい
  • 精密機器:マイクロスコープ、歯科用CTなどを前提に診断・探索・評価の確実性を高めやすい
  • 防湿・隔壁:唾液汚染を徹底的に遮断し、再感染リスクを低減しやすい
  • 洗浄戦略:到達性を意識した洗浄・活性化の設計を行い、細菌負荷を下げやすい
  • 封鎖戦略:根管充填後の支台築造・補綴連携まで一貫管理しやすい

「自由診療なら必ず短期」「保険は必ず長期」ではない

症例の難易度、感染の強さ、根尖病変の状態、歯の残存量、既存補綴物の状態などによって、必要回数は大きく変動します。自由診療であっても、排膿が続く、根尖外感染が疑われる、解剖学的難症例などでは、複数回の段階治療が最善となることがあります。逆に保険でも軽症例なら少ない回数で終わることもあります。重要なのは、回数の多寡ではなく、根拠ある工程で成功率を最大化しているかです。

「毎回同じに見える」理由と、各回で見ている臨床的指標

患者さまの視点では、毎回「器具を入れて洗って薬を入れている」ように見えるかもしれません。しかし臨床的には、各回で目的と評価項目が異なります。根管内が乾燥できるか、排膿が止まったか、症状が再燃しないか、仮封が保持されているか、根管内の臭い・滲出液の性状はどうかなど、微妙な差を見ながら次工程へ進みます。見た目が似ているのは、根管内という“見えない領域”を扱うために必要な標準化された手順が存在するからであり、むしろ再現性の高いプロトコルに沿っている証拠でもあります。以下に、臨床で重視する評価指標を整理します。

主な評価指標(患者説明にも重要)

  • 自発痛、咬合痛、打診痛の変化
  • 腫脹、瘻孔、排膿の有無
  • 根管内の乾燥可否(滲出液の有無・性状)
  • 仮封の状態(脱離・漏洩がないか)
  • 画像診断上の所見(必要に応じて)

通院回数を左右する代表的な要因(症例別)

根管治療の回数は「医院の方針」だけで決まるものではなく、歯の解剖学的難易度と感染の強さ、再治療かどうか、補綴物の状態、患者さまの咬合・歯周環境など、多数の要因で変動します。特に奥歯、湾曲根、追加根管の存在、既存補綴物が強固で除去に時間がかかるケース、器具破折や穿孔などのトラブルがあるケースでは、工程の追加が避けられません。安全性を保ちながら精度を最大化するために、1回の処置量を適切に区切り、段階的に進めることが結果として最短の近道になる場合があります。以下に、回数が増えやすい代表例を示します。

回数が増えやすいケース

  • 再根管治療(既存根充材・コア・補綴物の除去が必要)
  • 根尖病変が大きい/排膿が続く/瘻孔がある
  • 奥歯(根管数が多い、湾曲が強い、イスムスが多い)
  • 追加根管が疑われる(例:上顎大臼歯のMB2など)
  • 器具破折、レッジ、穿孔などの偶発症が疑われる
  • 歯の残存量が少なく、隔壁・封鎖設計が難しい

「通院回数を減らす」より重要なこと:成功率と長期予後(歯を残す確率)

根管治療は、短期的な通いやすさだけで評価すべき治療ではありません。目的は「歯を長期に保存すること」であり、感染が残ったまま封鎖してしまう、仮封が漏洩した状態で期間が空く、コロナルシールが不十分なまま放置する、といった状況は再発リスクを高めます。結果として再治療を繰り返し、歯質を失い、最終的に抜歯へ近づくこともあります。逆に、必要な工程を適切な順番で行い、再感染の入口を閉じる設計ができれば、歯は長く機能します。通院回数は“コスト”ではなく、“成功率を買う工程”と捉えることが、根管治療の本質に近い理解です。

患者さまができる成功率を上げるポイント

  • 治療中の仮蓋が取れた・欠けた場合は早めに連絡する(漏洩は再感染の入口)
  • 治療途中で自己判断で中断しない(未封鎖は再発の原因)
  • 痛み止めで凌いで放置せず、感染が小さい段階で治療を始める
  • 治療後は最終補綴まで完了し、咬合・歯周の管理も行う

よくある質問(FAQ)

根の治療に関する疑問は、通院回数だけでなく「痛み」「再発」「治療中断」「自由診療の必要性」など多岐にわたります。ここでは実際に多い質問を、保険治療と自由診療の考え方の違いも踏まえて整理します。ご自身の状況に近い項目から読んでいただくと理解が進みます。なお、最終的な治療方針は、歯の状態(感染・解剖・補綴)と全身状態、希望条件を総合して決定します。気になる点は遠慮なくご相談ください。

Q. 痛みが引いたのに、なぜまだ通う必要があるのですか?
A. 痛みは炎症の一症状であり、細菌がゼロになったことを意味しません。症状がなくても感染が残存することがあります。根管内の状態(排膿、滲出液、仮封の状態など)を評価し、再発を防げる条件が整ってから封鎖することが重要です。
Q. 保険の根管治療は質が低いのですか?
A. 一概にそうとは言えません。ただし、保険診療は時間・材料・工程設計に制約があり、症例によっては最適化が難しい場面があります。難症例ほど、精密診断・防湿・封鎖設計など、成功率に直結する要素をどこまで担保できるかが重要になります。
Q. 自由診療なら必ず通院回数が減りますか?
A. 必ずではありません。自由診療は治療設計の自由度が高く、症例によっては短縮しやすい一方、排膿が続く重度感染や解剖学的難症例では段階治療が最善となり、複数回が必要なことがあります。回数より成功率を優先して設計します。
Q. 途中で仮蓋が取れたのですが、次回まで待っても大丈夫ですか?
A. 原則として早めの受診が望ましいです。仮封の漏洩は、唾液由来細菌の再侵入につながり、治療をやり直す原因になります。違和感や欠け、脱離があれば早めにご連絡ください。

当院(自費専門・歯内療法専門)としての考え方:回数の最小化ではなく、成功率の最大化

根管治療は「早く終わるほど良い治療」とは限りません。重要なのは、感染制御と再感染予防を科学的に積み上げ、長期予後(歯を残せる確率)を最大化することです。当院は自費専門の歯内療法専門医院として、診断から防湿、精密処置、封鎖設計までを一貫して最適化し、可能な限り再治療の連鎖を断つことを目指します。症例によって必要回数は異なりますが、各回の目的と進捗を明確に説明し、患者さまが納得して治療を受けられることを重視します。通院回数に不安がある方こそ、まずは現状の診断と、成功率を高めるための治療設計についてご相談ください。

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