根管治療はなぜ再発が多いと言われるのか

アメリカの成功率とエビデンスで比較

根管治療(根の治療)は「一度やったのに再発した」「何度もやり直しになった」という声が出やすい治療です。一方で、海外、とくに米国の歯内療法(エンド)領域では、根管治療の成功率・生存率が高いことを示す報告が多く、医療者側でも“日本と海外で結果に差があるのでは”という議論が起こりがちです。ただし注意すべきは、根管治療の成績は「成功率」「治癒率」「生存率」「X線の病変率」など指標が複数あり、比較の方法次第で見え方が変わる点です。

比較のポイントは「指標の違い」と「治療設計(環境・時間・封鎖)」

日本の根管治療が「再発しやすい」と語られる背景には、

①“何をもって成功とするか”の指標の違い
②保険診療の構造上、根管治療にかけられる時間・工程・材料・防湿環境が制約されやすい現実
③根管治療の成否を左右する最大因子の一つが“最終的な封鎖(コロナルシール)”であること

が関係します。

米国を含む国際レビューでは、定義の違いにより成功率が大きく変動し、厳密条件では8割前後、緩い条件では9割超といった幅が示されています。日本については全国統一の「成功率レジストリ」が十分整備されていないため、X線疫学(根管治療歯に根尖透過像がどれだけ残るか)などの“間接指標”で現状を推定する議論が多いのが実情です。

「成功率」「治癒率」「生存率」「再発率」

根管治療の成績を語るとき、最も重要なのは“同じ物差しで比べる”ことです。一般に、根管治療のアウトカムは以下のように分類されます。

1)成功(Success / Healing)

  • 臨床的成功: 痛み・腫れ・瘻孔などの症状がない
  • 画像的成功(治癒): X線(またはCBCT)で根尖透過像が消失または縮小し、骨治癒が確認できる
  • 「厳密(strict)」と「緩い(loose)」の差: “完全消失”を求めるか、“改善・安定”も成功に含めるかで数字が大きく変わる

2)生存(Survival)

  • 歯が口の中に残り、機能している(症状が多少あっても「残っている」なら生存に入る研究もあり得る)
  • 成功(治癒)より高く出やすい指標です

3)再発(Failure / Retreatment / Persistent AP)

  • 症状の再燃(痛み・腫れ・排膿)
  • 病変の残存・増大(根尖透過像が残る/大きくなる)
  • 再治療が必要(再根管治療や外科的歯内療法へ移行)

つまり「成功率」と「再発率」は、定義と観察期間で大きく変わります。ここを揃えずに“日本は○%、米国は○%”と断定すると誤解が生まれます。

米国を中心とした国際エビデンス

◆根管治療の成功率は「定義次第で」約8〜9割

近年の大規模レビューでは、根管治療の成功率は高い一方で、評価基準(strict / loose)により幅があることが示されています。ここでは、臨床でも引用されやすい代表的なデータを要点で紹介します。

国際システマティックレビュー(一次根管治療のアウトカム)

一次根管治療に関するシステマティックレビューでは、成功率が「緩い基準」で約9割超、「厳密基準」で約8割前後という推定が示されています。研究の質にはばらつきがあるものの、“根管治療は高い成功率を持つが、評価基準で数字が変わる”という点が重要です。

米国の文脈で語られる「生存率」

米国歯内療法領域では、成功(治癒)だけでなく「歯が機能し続ける生存率」を重視した議論も多く、根管治療の生存率が高いことを示す論考が存在します。ただし、生存率は成功率(治癒率)より高く出やすい点に注意が必要です。

日本の現状をどう捉えるべきか

◆全国一律の「成功率」データは少なく、X線疫学が重要な手がかり

「日本の根管治療は成功率が低い/再発が多い」という主張は、しばしば一般向け情報として流通しています。しかし、学術的に厳密な意味で全国統一の成功率を断定するのは簡単ではありません。理由は、保険診療・自由診療・施設差・術者差・観察期間・評価基準が混在しやすく、標準化された全国レジストリが十分整っていないからです。そこで重要になるのが、成人集団のX線(パノラマ等)で、根管治療歯に根尖透過像(apical radiolucency)がどの程度見られるかという疫学データです。根尖透過像は「再発率」と完全に同義ではありませんが、少なくとも“根尖部の炎症が残っている可能性”を示す客観指標として有用です。

日本人成人集団のX線疫学 ~ 根管治療歯の一部に根尖透過像が見られる

日本人成人集団を対象にした放射線学的評価研究では、根管充填歯のうち一定割合に根尖透過像が確認されることが示されています。これは「根管治療=即治癒」ではなく、治療の質(根管充填の適切さ)や封鎖、感染制御が長期予後に影響することを裏付ける方向性のデータです。

この数字をどう読むべきか(重要)

  • 根尖透過像は「必ずしも症状がある」「必ずしも今すぐ再治療が必要」を意味しません
  • 一方で、根尖透過像の残存は「感染が残っている/再燃しやすい」リスクと関連し得ます
  • よって日本の“再発が多い”議論は、成功率の断定というより、治療環境と工程管理の差が結果に影響し得るという構造理解が本質です

なぜ差が生まれやすいのか

◆再発リスクを上げる主要因(臨床・制度・工程)

根管治療の成否は、単に「技術」だけでなく、診断から封鎖までの“治療設計”に依存します。ここでは、再発に直結しやすい要因を、保険診療環境で起きやすい現象も含めて整理します。

要因1:防湿(唾液汚染の遮断)が不十分だと、再感染の確率が上がる

根管内は極めて微小な細菌でも再感染の起点になり得ます。唾液は細菌の供給源であり、防湿が不十分だと治療中に再汚染が起きやすくなります。防湿は“あると良い”ではなく、感染制御の前提条件です。

要因2:見落とし根管・イスムス・側枝など「器具が届きにくい領域」

根管は単純な筒ではありません。追加根管やイスムス、側枝は感染の温床になり得ます。視野・診断・到達性の差は、成功率に影響します。

要因3:洗浄戦略(化学的清掃)の設計差

器具で触れられる範囲には限界があるため、洗浄は根管治療の要です。洗浄液の選択、量、交換、活性化(超音波等)、乾燥・貼薬の設計など、細部が結果を左右します。

要因4:封鎖(コロナルシール)が弱いと“根管充填が良くても”再感染する

根管治療の成功には、根管充填だけでなく、上部構造(支台築造・補綴)の封鎖が不可欠です。仮封の漏洩、最終補綴の遅延、適合不良は再感染の入口になります。臨床的には「根管治療の再発の多くは、封鎖の破綻と関連する」と考えると理解しやすいです。

要因5:保険診療の構造的制約で「時間・工程」を十分に確保しにくいことがある

保険診療は国民皆保険として重要な仕組みですが、根管治療は多工程で高工数な精密処置です。1回の診療時間確保、器材選択、工程の自由度などが制約されると、結果として“理想的な設計をやり切る”ことが難しい場面が生じ得ます。ここが「保険と自由診療の違い」の本質であり、単なる価格差ではありません。

保険治療と自由診療の違い

◆価格ではなく「成功率に影響する変数を最適化できるか」

自由診療の本質は、贅沢な治療ではなく、成功率に直結する変数(診断・防湿・視野・到達性・洗浄・封鎖・工程管理)を症例に応じて最適化できる点にあります。軽症例なら保険でも良好に経過することはありますが、再治療や難症例ほど、変数最適化の差が結果に出やすくなります。

比較表 ~ 保険治療 vs 自由診療(根管治療で差が出やすい要素)

項目 保険治療(一般的傾向) 自由診療(設計の自由度)
治療時間の確保 枠の制約で分割になりやすい 難症例でも十分時間を確保しやすい
防湿(唾液汚染遮断) 徹底が難しい環境が残りやすい 徹底した防湿前提で設計しやすい
診断・視野・探索 施設差が大きい 精密機器を前提に戦略化しやすい
洗浄戦略の最適化 運用制約が影響しやすい 症例に応じた最適化を行いやすい
封鎖(コロナルシール) 最終補綴までの連携に差が出やすい 封鎖まで一貫管理しやすい

数字の見方 ~ “誤解が少ない”理解フレーム

根管治療の数字を読むときは、次の3点を押さえると誤解が激減します。

  • ①成功率=治癒率、生存率=残存率:同じではない
  • ②厳密基準(strict)か緩い基準(loose)か:研究により大きく変わる
  • ③観察期間:短期は良く見え、長期では差が出やすい

したがって「日本は○%、米国は○%」という単純比較より、“成功率を左右する工程がどれだけ担保されているか”で治療の価値を判断する方が、長期的に歯を守るうえで合理的です。

当院(自費専門・歯内療法専門)の立場 ~ 成功率を上げるための「設計」を省略しない

当院は自費専門の歯内療法専門歯科医院として、根管治療を“作業”ではなく“感染制御の医療設計”として扱います。重要なのは、短期的に回数を減らすことではなく、長期的に再治療の連鎖を断つことです。診断、唾液汚染遮断、根管探索と到達性の最大化、洗浄戦略、封鎖(コロナルシール)までを一貫して最適化し、患者さまが「もう同じ歯で悩まない」状態を目指します。再発・再治療でお困りの方は、現在の根管の状態と再発リスクの要因を可視化したうえで、最も合理的な治療戦略をご提案します。

参考文献(主要エビデンス)

  1. 一次根管治療のアウトカムに関するシステマティックレビュー(成功率:strictとlooseで差)
  2. 日本人成人集団における根管治療歯・根尖透過像の放射線疫学研究
  3. 歯内療法領域で参照される生存率に関する論考(米国文脈)

歯内療法・根管治療について相談したい方へ


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