歯髄保存療法(VPT:生活歯髄温存療法)
歯髄保存療法(Vital Pulp Therapy:VPT、生活歯髄温存療法)とは、進行したむし歯や外傷により歯の神経(歯髄)に病変が及んでいる、あるいは及ぶ可能性がある場合に、歯髄を除去せず、保護・温存することを目的とした高度な歯内療法です。
歯髄は単なる「痛みを感じる組織」ではなく、歯に栄養を供給し、防御反応や修復反応を担う生きた臓器です。歯髄を保存できるかどうかは、その歯の寿命を大きく左右します。
なぜ歯髄を「残す」ことが重要なのか
歯髄を失った歯(失活歯)は、
- 歯が脆くなり、将来的な歯根破折リスクが高まる
- 歯の免疫・修復能力が失われる
- 再感染・再治療・外科的歯内療法の可能性が高くなる
といった不利な条件を抱えることが知られています。そのため、現代の歯内療法では「神経を取るかどうか」ではなく、「神経を保存できるかどうか」が極めて重要な判断ポイントとなっています。
歯髄保存療法(VPT)の基本概念
歯髄保存療法は、歯髄の炎症が可逆的であり、感染がコントロール可能であると判断された場合に成立する治療です。単に神経を「残す」治療ではなく、
- 感染源の完全除去
- 歯髄への細菌侵入の遮断
- 歯髄の治癒反応を最大限引き出す環境構築
を同時に満たす必要があり、高度な診断力と精密な治療操作が求められます。
歯髄保存療法の4つの治療法
歯髄保存療法は、歯髄の露出状況や感染の程度に応じて、主に以下の4つに分類されます。
① 間接覆髄法(Indirect Pulp Capping)
深いむし歯が存在するものの、歯髄が露出していない場合に行われる方法です。感染した象牙質のみを除去し、歯髄直上の象牙質をあえて残したうえで、歯髄保護材を用いて歯髄を間接的に保護します。
- 歯髄露出なし
- 比較的軽度〜中等度の歯髄炎
- 歯髄への侵襲が最小限
② 直接覆髄法(Direct Pulp Capping)
むし歯除去中や外傷により、歯髄が点状に露出した場合に行われます。露出部を無菌的に処理した後、MTAなどの生体親和性材料で直接被覆し、歯髄の治癒を促します。
- 歯髄露出あり(小範囲)
- 迅速かつ厳密な無菌操作が必須
③ 部分断髄法(Partial Pulpotomy)
歯髄表層に限局した炎症が認められる場合に、炎症部分のみを選択的に除去し、健全な歯髄を保存する方法です。特に若年者や外傷歯で高い成功率が報告されています。
- 炎症が歯髄表層に限局
- 歯髄の治癒能力を活かす治療
④ 断髄法(Pulpotomy)
歯冠部歯髄を除去し、歯根部歯髄を保存する方法です。従来は小児歯科領域で多く用いられてきましたが、近年では成人永久歯においても、適切な症例選択と材料使用により高い成功率が報告されています。
- 歯冠部歯髄に炎症が及んでいる場合
- 歯根部歯髄が健全であることが前提
歯髄保存療法の成否を分ける重要因子
歯髄保存療法の成功は、以下の条件がすべて満たされた場合にのみ成立します。
- 正確な歯髄炎の診断(可逆性/不可逆性)
- ラバーダム防湿による完全な無菌操作
- マイクロスコープ下での精密処置
- MTA・バイオセラミック材料の適切な使用
- 確実な封鎖(マイクロリーケージ防止)
これらが欠けると、一時的に症状が消失しても、将来的に歯髄壊死や再感染を招く可能性が高くなります。
当院における歯髄保存療法の考え方
当院では、歯髄保存療法を「神経を残すこと自体を目的とする治療」とは考えていません。歯の長期的な予後を見据え、
- 保存すべき歯髄か
- 保存しても長期的に安定するか
を厳密に評価したうえで治療方針を決定します。
歯髄保存療法をご検討の方へ
「神経を取るしかないと言われた」「できる限り歯を長く残したい」そのような場合でも、歯髄保存療法が成立するケースは少なくありません。歯内療法専門医による精密診断のもと、保存の可能性と限界を正確にお伝えします。
歯髄保存療法について相談したい方へ
